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January 2009

01/23/2009

x81:オバマ大統領就任演説

一昨日はCNNの動画で就任演説の最初の2,3分を聴いたところで急に忙しくなってしまい、後を聴きそびれてしまった。どんな内容かはメディアのいい加減な解説から想像するしかなかったが、さっき急に思い立ってネットでトランスクリプトを探して録音してみた。読んだことのない内容をいきなり録音するのは一見大変なようだが、テキストの意味を考えながら即興でイントネーションや間合いを決めていくのは意外と刺激的で楽しいし、お手本を参考にシャドーイングするよりもはるかに自発性を発揮できる。(ちなみに僕はシャドーイングには否定的で、コミュニケーションを意識して自分なりにデフォルメするプロセスが必須だと思っている。)

オバマ氏の出だしのパフォーマンスはややスローテンポすぎるような気がしたので、やや速めにした。文章は相変わらず端正だ。声に出して読み進めていくと、自然と次のフレーズが導かれる観があり、理解しにくい部分がほとんどない。何カ所か構文がやや込み入っている部分はあるが、強調すべき語を強調して読むなど工夫すれば聴き手にも容易に理解できるレベルだ。音読の素材としては理想的といえる。

全体を見渡すと、オバマ氏の哲学というか理念が前面に出た演説という感じがする。多彩なイメージやリフレインを駆使して気分を盛り上げた勝利演説に比べると、悪く言えば地味かもしれないが、より理知的に新しいアメリカのビジョンを描いてみせている。まず、戦争や不況といった厳しい環境にあっても決して自信と希望を失わないよう呼びかけた後、経済立て直しのためマネーゲームの監視を強化するとともに行政側の野放図な支出を諫めること、医療の質を高めてコストを抑えること、再生可能エネルギーの開発で石油依存からの脱出を図ること、科学軽視の愚策を改め、教育を充実して新技術を国の発展に役立てること、外交面では諸外国の信頼を取り戻し、相互理解に基づく関係強化を図ること、などなど、今後の柱となる方針を分かりやすく概括するとともに、人心を統一する合い言葉として「サービス」、すなわち自分よりも大きな存在のために進んで貢献する精神の大切さを説いている。

最後に引用したのはジョージ・ワシントンの言葉だろうか? 聴いていると、結構インパクトのあるビジュアルなイメージが浮かぶ。独立戦争の最中でまだ勝利のめども立たない真冬のある日、あたりの雪は血に染まり、しかも敵は間近に迫っている。そんな苦しい状況の中で、ワシントンは伝令でも出したのだろうか、「君たちはこの絶体絶命の時に奮起して危機を打開した、と後世の人に語り継がせようじゃないか」という言葉で皆を奮い立たせた。それと同じく、我々も子孫に「あの人たちは苦しい時にも決してくじけなかったんだよ」と語り継がれるように皆で力を合わせよう、とオバマ氏は結ぶ。

暖房のきいたリビングルームではなく、凍てつくようなワシントンDCの寒空の下で就任演説を聴いた人々に、この結びのエピソードがどれだけリアルで鮮烈な印象を与えたかは容易に想像がつく。

全体を一度読み上げて二度聴き返したが、繰り返して味わうほどに印象が深まるテキストだ。手軽に引用できるサウンドバイトには欠けているが、それは逆に理性的な聴き方が求められているからにほかならない。

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01/22/2009

x80:核拡散防止条約の行方

1月10日にウォールストリートジャーナルに掲載されたコラム。NPTの見直しが来年に迫っていることから、その現状と問題点について要領よくまとめている。世界的な核の脅威を緩和する目的で生まれたこの条約は、核保有国には核兵器の放棄(削減)を求め、それを条件に非保有国に核兵器の開発や保有を断念させる、という枠組みを基本としているが、長年の間に削減努力がなし崩しとなっている部分が多く、また抜け道も多いので、NPTの実効性への疑問が高まっている。北朝鮮やイランといった国はNPTの枠組みの外に立って、核保有国のエゴを非難しながら着々と核保有への道を歩んでいるし、もちろん核保有国側も自らアドバンテージを積極的に放棄するとは考えにくい。そうした緩やかなチキンレースの結果、交渉が膠着したまま核保有国はじわじわと増え続ける、という図式になっている。

以前取り上げた「Backstabbing for Beginners」や"Mission Implausible"の筆者も述べているが、そもそも国連というのは第二次大戦後に当時の核保有国の既得権益を守るための組織だ(国連安保理の常任理事国などはヤクザの組長の集まりに権限を持たせたようなものと言われても仕方あるまい)。子供でも分かるようなこうした不条理が国連の名のもとにまかりとおっている以上は、NPT問題の解決もほど遠いといわざるをえない。核保有国が自己犠牲精神を発揮するよう仕向ける手はないものか。

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01/20/2009

x79:ホーキング「A Brief History of Time」

何度か黙読で読みかけては途中で投げ出してきたこの本だが、オーディオブック化を試みることでようやく第4章"The Uncertainty Principle"をクリアできた。一見オーディオブックには不向きの内容のようだが、ロジックが分かりやすいため繰り返して聴いても苦にならず、意外と相性はいい。といってもここまでの内容はまだせいぜい高校レベルで、本当に難しくなってくるのは第5章以降なのでまだ油断はできないが…。

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01/16/2009

x78:キッシンジャー「外交」より

ベトナム戦争を扱った3つの章の中の最後、第27章The Extricationのエンディング部分。この分厚い本はオーディオブック化が遅々として進まず、ここまでで丸二年経過しているが、それでもやり通す甲斐がある中味の濃い一巻だ。特にベトナム戦争に関する分析を読むと、現在アメリカが陥っているイラク戦争の罠と酷似していることに驚かされる。前にこの本をスキミングした時は、キューバ危機あたりまでの分析は秀逸だが、キッシンジャー自身が当事者となったニクソン政権時代から後の記述はだいぶ強弁的で、自分たちのとってきた政策を正当化しているだけなのでは、という印象を受けたが、今回読み直してみてこの印象は間違っていたことに気づいた。確かに自己弁護の要素もなくはないのだが、当時の米政府が置かれた現実とマスコミの主導する世論がいかにかい離していくか、その中でキッシンジャーが外交担当者として北ベトナムの代表とどう渡り合ってきたかを詳細に説明していて、かなり説得力のある自己弁護になっている。特に以下で取り上げた抜粋部分には、時代を超えた貴重な提言が含まれている(残念ながらブッシュ政権の耳には届かなかったようだが)。

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01/13/2009

x77:ウェッジウッド破たんの教訓

英Times紙コラム。陶磁器の老舗ウェッジウッドが経営破たんに追い込まれたが、同社がイノベーティブなマーケティングを展開して成長した企業だったことはあまり知られていない。そうした内容もさることながら、このコラムは文章がかなりうまいと思ったので取り上げてみた。

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01/11/2009

x76:人道的活動が営利事業であってはいけないのか?

ニコラス・クリストフの12月24日付けNYTコラム。世間では「慈善事業の名を借りて私腹を肥やすなんて言語道断」という見方が常識だが、はたしてそう片づけてしまっていいんだろうか? という問いかけ。一読の価値はある。

原文:
http://www.nytimes.com/2008/12/25/opinion/25kristof.html?_r=1&scp=2&sq=kristof%20pallotta&st=cse

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01/09/2009

x75:"The Gaza Boomerang"(過激派が生んだ悪循環)

New York Times紙コラム。筆者ニコラス・クリストフは一般市民の目線でものを書くので、パレスチナ情勢のように込み入ったトピックも説明がわかりやすい。しばらくこの人のコラムやブログに注目していこうかな。

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01/01/2009

x74:ジェーン・オーステン「Emma」

2009年の幕開けは、新しく録音し始めた「Emma」の第1章。オーステンはもう2世紀ほども前の女流作家だが、今でも英米ではよく読まれ、主要作品は繰り返し映画やテレビドラマになっている。

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昨年はそのオーステンのもう1つの代表作「Pride and Prejudice」もオーディオブック化して楽しんだ。オーステンの場合、登場人物の性格が言葉の端々を通じて巧みに書き分けられているので、それを意識しながら音読するといつまでも飽きない。文章は思ったほど古めかしさを感じさせず、現代でも十分通用する言い回しも多い。
ここに全編を掲載しても差し支えはないのだが、1年近く経って聞き直してみると不満な点がいろいろ出てきたので公開はやめ、代わりに今取り組んでいる「Emma」の序章を掲載することにした。「Pride and Prejudice」より少し後に書かれたこの作品は、主題はややトリビアルだが、シャープな性格描写や筆者の観察眼の鋭さには大いに見るべきものがある。長いので録音には結構時間がかかるが、得るものも大きいはずだ。オーステンの主な作品はいずれ全部オーディオブック化して、繰り返しじっくりと味わおうと思っている。

実は数カ月前に、「Emma」のオーディオブックをaudible.comで買って聴き始めた。ナレーターはイギリスの女優ジュリエット・スティーブンソンで、別の作品を聴いてたいへんうまいのは知っていたのだが、どうも今回は頭に入ってこない。最初の数章でつまづいたままいっこうに先に進めないので業を煮やし、自分で録音し始めてみると、今度は苦もなく理解できるので驚いた。おそらく、音読というアクティブなプロセスを経ることが理解の助けになったのだろう。いくら上手なプロの朗読でも、ただ受け身で聴いていては頭に入らないこともある、という好例だ。

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